鳥のように空を自由に飛ぶ人だと思った。
通り過ぎた赤を目で追えば空高く飛び上がる。
こんな色の鳥を私は今まで見たことがなかった。
その影は太陽と重なり眩しくて目を瞑ったら刹那、
もうあの人は居なかった。
目を開けたら視界がぼんやりと霞んだ。
つう、と肌を何かが伝っていく感触がする。
初めて見た赤が筆から零れる。絵の具の雫みたいに鮮明に私の中にぽたり、じわりと広がっていく。
あれから日毎に染みは大きくなって滲んでいくばかりだ。
暫くそのままでいたが、その何かは耳の中に入ろうとするので慌てて起き上がった。
手の甲で現実を拭ってみてもやっぱり彼は見つからない。…もしかすると本当に翼が生えて飛んでいってしまったのではないだろうか。大いにありえる。
彼ならやってのけそうだ。
そう思案して、途中で止めた。現実逃避にしてもあまりに突拍子もない。
わかっているから。
私に何が、出来よう。
胸の奥底に鈍い音が走る。
あの赤い色の鋭い觜で抉られる心持ちだ。
ずきずき、する。
人はこんな気分を痛いだとか、苦しいだとか、切ないだとか名前を付けるのだろうけど私にはどれもしっくり来ない。
自分に出来ることといったらあの赤い染みを更に広げることだけだ。
鳥のように空を自由に飛ぶ人だと思った。
来世生まれ変わったら空に成りたいと思う。
そうしてあの人に似た赤い鳥を探そう。
もしかしたら生まれ変わって鳥になっているかもしれない。
そして夢の終わりにいつも気付くのです。
ああ、あの人も、なんてことない、ただの人間だったのだ、と。
いくら大空を舞ったとしても、翼を持たない彼は本物の鳥にはなれなかったんだ。
それでも、
私は鳥のような人だと思う。だからあなたが自由に飛ぶ空の一部に溶け合えたら
きっとそれが幸せなのでしょう。
ねえ、空は綺麗ですか。
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